「人のために動くのがつらい」新入社員の本音と、5月に急増する“静かな退職”――企業がいま本当に向き合うべきこと
4月に入社したばかりの新入社員たち。希望に満ちた入社式から1ヶ月、待ちに待ったゴールデンウィークが終わると――突然、辞表が増え始めます。ある退職代行業者には、GW明けの1週間で250件以上の依頼が殺到。企業側もこの現象に慣れつつあるという、異常ともいえる現実があります。
一体なぜ、社会人生活のスタート直後に、これほどまでの“離脱”が起きてしまうのでしょうか?
そして、そうした状況の中で、企業が今どのような工夫をしているのか――
今回は、「人のために動くのが面倒くさい」と感じる若者たちの背景と、企業側の対応を含めて考えてみましょう。
「人のために動くのが面倒」――それって悪いこと?
「人に気を遣って仕事をするのが、思った以上にしんどい」
「自分のペースでやりたいのに、周囲に合わせないといけないのが辛い」
最近、新入社員の声としてよく聞かれるのが、こうした“対人ストレス”です。
SNSの時代に育った若者たちは、「自分の感情やペースを尊重する」価値観が強くなっている一方で、「集団の一部として働く」ことへの違和感を抱きやすい傾向にあります。
この“ズレ”が、入社後1ヶ月というタイミングで、表面化するのです。
もちろん、「人のために動くのが面倒だ」と感じること自体は、悪いことではありません。むしろ、自分の感情に正直である証拠です。ただし、仕事というのは「人の役に立つことで報酬を得る」構造上、どうしても人との関わりが避けられません。
つまり、社会に出るということは、「自分と他人の距離感」を上手に保ちながら生きるスキルを磨く旅とも言えるでしょう。
「新入社員の5月病」はなぜ起こるのか?
多くの新入社員がGW明けに辞めてしまう原因のひとつが、いわゆる**“5月病”**です。これは、以下のような理由が複雑に絡み合って発症します。
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入社直後は緊張と期待でいっぱい → 4月は何とか乗り切る
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GWで一気に緊張がゆるむ → 心と体の落差が激しい
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本配属や業務が本格化 → 「こんなはずじゃなかった」というギャップ
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コミュニケーション疲れ → 「人の顔色を伺いすぎて疲れた」
結果、「もう無理だ」と限界を感じるタイミングが、GW明けに集中するのです。
急増する“退職代行”利用者、その背景
近年では、退職代行サービスを利用して会社を辞める若者も急増しています。
特に新入社員の場合、「自分の言葉で辞意を伝えるのが怖い」「迷惑をかけたくない」「引き止められたくない」といった理由から、他人に任せて辞める傾向が強くなっています。
ある代行業者によれば、GW明けの依頼件数は前年比150%超。
中には「入社して3日目で限界を感じたが、GWまで我慢して辞めた」という声も。
これは単なる“逃げ”ではありません。メンタルヘルスや自己防衛としての判断であることも多く、「無理に耐えること」が美徳とされない時代になってきたのです。
企業側の対策――“辞めさせない”より“支える”へ
このような流れの中で、企業も少しずつ変化しています。
例①:ジム費用の補助
「ストレス発散の場をつくってあげたい」という思いから、スポーツジムやフィットネスの費用を補助する企業が増加。特に在宅ワークで身体を動かす機会が減った今、こうした制度は社員に好評です。
例②:メンタルケアの強化
産業医による定期的な面談、社外カウンセラーとの連携、匿名で相談できるアプリの導入など、心のケアを前提にした取り組みが拡大しています。
例③:キャリア面談の早期導入
「この仕事、本当に自分に合ってるのか?」という不安を減らすため、早い段階でキャリアについて話し合う時間を設ける企業も。入社前のイメージと実態のズレを早期に埋める工夫です。
大人だって「人間関係」はしんどい。でも…
「人のために動くのが面倒くさい」と感じるのは、ごく自然なことです。
それは、自分のリソース(時間や心の余裕)を大事にしたいという気持ちの現れでもあります。
しかし、社会で生きていくには、“誰かと関わること”から完全には逃れられないのも現実。
大事なのは、「全部に応えよう」としないこと。
そして、自分ができる範囲で誰かのために動いてみること。
ほんの少しだけでも、「ありがとう」と言われる体験があると、自己肯定感が高まり、仕事の意味を感じられるようになります。
まとめ:心を守ることと、社会に慣れることのバランスを
GW明けに退職を決断する若者たちを、単純に「根性がない」と決めつける時代ではありません。
むしろ、そうした声に耳を傾け、個々の働き方や価値観に寄り添う社会へと変わりつつある今こそ、職場と個人の“距離感”を再考するチャンスなのかもしれません。
大切なのは、自分の心を守ること。
そして、自分に合ったペースで、社会に慣れていくこと。
「人のために動くのが面倒くさい」と感じたときは、まずは自分のために動いてみる。
そうするうちに、少しずつ「誰かのために動く」ことも、重荷ではなくなってくるかもしれません。
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